犬・猫・ハト…からうつる 人畜共通感染症に注意
風邪が長引く時は病院へ
猫ひっかき病・Q病…
犬、猫などのペットやハトなどから人間にうつる「人畜共通感染症」が増えている。国内で知られているだけでも、オウム病、猫ひっかき病など80種類以上になる。最近では、肺炎や心内膜炎など重症に陥ることもあるQ熱などの感染も報告されている。専門家は「ペットや野良猫、ハトなどと接触したあとで風邪に似た症状が続いたら、素人判断は禁物。病院で診てもらってほしい」と呼びかけている。
都内に住む主婦Aさん(31)はせき、発熱、全身の疲労感などが続いた。市販の薬を飲んでも回復しない。2週間たっても熱がひかず、せきなどがひどくなった。「軽い肺炎」と診断され入院。1週間後、症状はさらに重くなり、「劇症肺炎による呼吸不全」で死亡した。解剖や血液検査で、肺がオウム病に侵されていたことがわかったという。
オウム、セキセイインコなどのペットや、ハトなどに潜むクラミジアの一種がオウム病の病原体だ。鳥のふんや唾液(だえき)などを吸い込んだりすると感染、2週間ほどの潜伏期を経て発熱、頭痛や気管支炎などを引き起こす。テトラサイクリン系の抗生物質が効くが、治療が遅れると肺炎などになり、Aさんのような死亡例が国内でも相当あるという。
「口移しでエサを与えたり、ふんなどを素手で触ったりしないこと」と日大医学部の荒島康友助手。鳥かごを掃除するときは、熱湯で殺菌したり、ほこりが舞い上がらないようにしたりすることも大切だ。荒島さんは「鳥は健康に見えても、病原体を持っていることがある。元気がなくなったらオウム病の可能性があるので、人間に感染する前に、動物病院で治療して欲しい」と話す。
ハトも病原体を持っていることが多い。近づきすぎたり、羽根やほこりなどを吸い込んだりしないことが大事だ。
猫ひっかき病も増えつつある。猫にひっかかれたり、かまれたりして発病すると、疲労感や関節痛、発熱の症状が出て、リンパ節がはれる。ふつう2、3週間で自然に治るが、急性脳症や眼球の運動障害を起こすこともある。女児(8つ)が意識障害に陥り、脳症になったとの報告もあった。国内の猫の15%前後から病原体の抗体が見つかっており、猫のつめを清潔に保つことが予防になる。
トキソプラズマ症は妊婦が感染すると死産、流産につながる危険性がある。猫がふんと一緒に排泄する原虫から感染するが、排泄(はいせつ)直後のふんの原虫には感染力がないので、ふんはすぐ捨てるように心がければ、それほど心配しなくていい。
昨年、国内で初めて死者が出たQ熱はとくに用心が必要だ。ペットのふんやほこりなどを通じて感染、インフルエンザに似た症状を起こし、肺炎や肝炎などにつながることがある。抗生物質が効き、2週間ほどで回復するが、慢性化すると心内膜炎など重症になることもある。岐阜大学農学部の平井克哉教授は「国内では10年ぐらい前から流行していたようだ。推定だが、数万人単位で患者がいる可能性がある」と言う。
医師でも人畜共通感染症の知識を持っている人は多いとはいえない。簡単な検査法がなかったり、症状も風邪に似ていたりするので、診断や治療は遅れがち。「ペットから病気がうつる!」(国書刊行会)の著者で日大農獣医学部の浅野隆司講師らは「風邪に似た症状が長引けば、病院に行って欲しい。猫やインコを飼っている場合は医師に知らせること」と話す。
<人畜共通感染症> 世界保健機関(WHO)は「人間とせきつい動物との間で自然に移行する病気」と定義しており、ペスト、狂犬病などが代表的だ。細菌やウイルス、寄生虫などが病原となる。日本では、犬と家畜以外の動物を輸入しても検疫がない。ペットのは虫類から日本にいない寄生虫が見つかるなど、近年のペットブームで新たな病気の侵入が心配されている。
【写真の説明文】
公園に集まるハトも「オウム病」の病原体を持っていることが多い。羽根やほこりなどを吸わないよう注意が必要だ=東京・上野公園で
【転載元】
『朝日新聞』 1996年3月10日 朝刊 p.38(日曜版の2面)右上の記事から
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