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オリンピックが終わり数日がたった
怪我も癒えて仕事に戻った渚を膨大な書類の山が待っていた
そしてあの時感じた興奮もいつの間にか消え、元の日常が戻っていた
仕事を終え部屋へ帰ると、飼い猫がソファーからゆっくり立ち上がり
渚のに向かって歩いてくる。
自分一人ではないその部屋は少しは孤独感を薄めてくれる
もし飼い猫がいなかったらどれほど寂しい思いをしたか!
一人になった渚にはその時どうしても一緒に住んでくれる誰かがほしかった。
そして猫を飼った。
10時間以上働く日が一週間も続き、渚は服のままソファーに
倒れこんだ。猫は驚いて飛び跳ねたが、うつ伏せになって寝ている渚の横に
また戻って柔らかい毛を渚の頬に押し付けた。
猫の匂いを感じた瞬間、眠りに落ちていった。
見てはいけない夢をみていた。男の夢だった
その名前は「樫木達也」。
忘れようと思えば思うほど心を揺らす名前だった
二人は川岸に立っていた。暗い水面に流れる水の音が心地よかった
あの日、以前から誘われていた映画に行き食事をした
愛することなど絶対にありえない!そう言い切れる男だった
だから安心して付き合ったのだ。
渚を誘う男は一人ではなかったがどの男も渚にとって微妙な位置に立っていた。
皆、笑顔の下から下心を覗かせていて、それが決して嫌な訳ではなかったけど
煩わしくもあった。
ただ一人 樫木だけは渚の心を動かすなにも持ち合わせていなかった。
たかをくくっていたのだ。
河川敷に作られた子供たちの為の遊具が暗闇の中で
静かに眠っているようで、渚は思わずブランコに飛び乗って
力一杯揺らし始めた。
子供じみたその行為に樫木も直ぐ反応して、二人は並んでブランコをこぐ。
眠っていた遊具たちが迷惑そうに二人を見つめている
「ああ!もう何年もないは、こんなに息が弾んだこと」
ブランコを飛び降り、荒い呼吸の渚が言った
樫木も思いっきり遠くに飛び降り、笑顔で渚の横にきた。
呼吸が落ち着き、川の水音が聞こえて始めていた。
渚は今乗っていたブランコの方を暖かい気持ちで振り返った
その時・・
樫木が不意に渚を後から抱きしめてきた。だがそれは男のそれとは違い
母に甘える子供のような仕草だった。
その行為はなぜか渚を甘い優越感に誘い、心がクスっと笑うのを感じた
「どうしたの?」と・・
ささやくようなやさしい声が渚の唇から流れ出した。不幸な恋の始まりだった。
身体がビクリと動き、何度も見る夢はおわり
渚は目を覚ました
・・・・・・・・・・・・
PCの電源を入れると何時ものようにメールソフトを起動して
回線をつなぐ・・・
一通、二通とメールが落ちてくる
渚は今日も来るはずのないメールボックスを眺めていた
ダウンロードが終わり、小さなため息が部屋を満たす
kasiwagiと書かれたメールボックスは当然の事だが今日も空のままだった。
ただ渚はそのボックスを削除することがどうしても出来なかった
何通かきているメール。
そこには今日も好きでもない男からのラブメッセージが来ていて
何度来ても返信を書かない渚を無視するかのように
相変わらずの愛が語られていた。
いつまでこの男はこんな空しい行為をつづけるのだろう
怒りより哀れみが渚をつつみ削除しようとしたマウスの動きが止まる
自分なら、幾度書いても返事の来ない人に性懲りもなくメールを
出しつづける勇気はない。
ただへこたれないこの男の強さが今日は羨ましくもあった。
ふと見ると知らぬ人からメールがきていた。
中村という名前に見覚えもなく、開いてみるとまず
「トライアスロン」と言う文字が目に入った。
そうか、あの時・・・オリンピックでトライアスロンを見た直後
渚はインターネットで「トライアスロン」を検索していた。
幾つものサイトを観て回りあるサイトにたどり着いた
そこではトライアスロンのメーリングリストをやっていて
その募集が目に入った。
興奮していた渚はためらいもなくそれに登録をした
その後、そのMLからは幾つかのメールが来たが
渚は、よく分からない話に少々飽き飽きしていた。
メールはその主催者からのものだった
つづく
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